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2021.05.12

「鮭の聖地」をいつまでも。世界自然遺産の海で、持続可能な漁業を目指して。(有)阿保水産代表取締役 芦崎拓也さん(羅臼町)

    北海道北東部にある世界自然遺産・知床を有する羅臼町は、根室海峡に面した人口4,685人(2021年4月30日時点)人の漁業の町です(2020年12月31日時点)。近年では漁業の衰退や漁獲量の低下なども問題視されていますが、世界自然遺産に漁場があるというその希少なエリアは、「鮭の聖地」として日本遺産にも認定されています。今回は、羅臼町の貴重な漁場で持続可能な漁業を目指す、(有)阿保水産代表の芦崎拓也さんにお話を伺いました。(聞き手:清水たつや)

    ■世界自然遺産に尽力した、叔父の背中をみて漁師に

    芦崎さんは生まれも育ちも羅臼町で、大学進学で一度地元を離れたそうですが、どんな経緯で漁師になったのでしょうか?

    芦崎:そもそも阿保水産は、母方の会社がルーツで僕が4代目という形になります。母方は函館から魚を求めて、父方は富山県から昆布漁をやるために、この「地の果て」までやってきました。僕は、羅臼町で生まれ育って進学で離れましたが、羅臼にはずっと戻ってきたかったんです。好きなんですよね、生まれた場所なので。あと、2代目だった阿保薫という叔父さんが僕の憧れの人でもあったので。叔父さんは当時、観光協会の会長で、世界自然遺産の申請者にもなっている人なんです。

    -そんな凄い人が身近にいると、自然と影響を受けてしまいますね。

    芦崎:そうですね。それと当時、「単に世界自然遺産に認定されるだけじゃなく、外への発信も同時に」と呼びかけて実現させた映画があって。それが、「北の国から2002遺言」なんです。

    -すごい、映画まで…。そんな裏話があったのですね。

    芦崎:そこまでして羅臼町を全国に広めたかったんでしょうね。また、羅臼町民がエキストラとして参加しているので、亡くなる前の婆ちゃんとか当時の町民が映っているんです。そうした意味でもこの映画は、後世に残る財産ですよね。

    地域のために尽力されていたのですね。

    芦崎:はい。ですが、世界遺産登録日の半年前に亡くなってしまいまして。登録後の知床羅臼を見ていないんです。うちは女系家系で、叔父さんと僕が数少ない男というのもあって、とてもかわいがってくれて。そういう人が身近にいたから、なおさら僕も地域のことを思うのかなと。叔父さんと同じく僕も羅臼町の観光協会に入っていて、また教育委員ということもあるので学校教育の中に、この映画を取り入れることが出来ないかなと思っています。こうした作品を見てもらうことで、羅臼を好きになる子どもが増えればいいなと。

    ■漁師として、経営者として見えてきたもの

    -漁師の仕事について、当時から現在まで芦崎さんが感じる課題やなど聞かせてください。

    芦崎:30歳の頃に漁師の経験ゼロで戻ってきて、3年ほど今の会社の従業員と一緒に知床半島の番屋に住み込みしながら働きました。大自然の中で暗いうちから始める仕事の大変さや孤独感、魚が捕れたときの達成感といったものは、経験しないと分からないので。やってみると、やっぱり漁師って尊敬する仕事ですよね。でも、これからの時代は捕り手が減っているし、漁獲量も年々減っていっている。なので、ある程度の漁獲量をベースに魚の金額を安定させないと、捕れば捕るほど資源が枯渇してしまうと思います。乱獲による資源の破壊は、国内でも過去に例があるので。

    今まで捕り過ぎてしまって、魚そのものが減ってきている?

    芦崎:そうですね。でも、ヨーロッパや北米にいくと、年間で捕れる漁獲量は1隻ずつ決まっていて、その量を捕ったら終わりなんです。なぜかというと資源を管理して、魚価も決まっている。だから漁師の収入が安定する。魚の量が増えたとか、減ったといったようなことをしていると持続可能ではないですよね。実際に定置網漁と呼ばれる漁法で漁をしているんですけど、去年から出航回数に制限をかけてみました。みんなには、「なんで捕ってこないんだ」って言われましたけど(笑)。でも、それでいいんです。そもそも漁獲の金額に対して、従業員の給与の割り合いって組合で決まっているんです。例えば1千万円捕ったら、漁の中の経費を差し引いて残った分の何割を従業員で振り分けなさいよ、って決まりなんです。漁獲量を落として経費はこれまでと変わらないとなると、従業員のもらえる金額が少なくなりますよね?魚が捕れなくなるのは誰のせいでもないけど、経費を減らせないのは経営者の責任。だから経費を圧縮したいですよね。

    -従業員のかたの反応はいかがでしょうか?

    芦崎:従業員に我慢してもらうこともありますが、ちゃんと説明をします。実際にやってみて、休みは増えるは、給与も増えるは、となれば悪くはないですよね(笑)?だから会社は、自分の会社の経費を見直して最低限にすれば、そこまで魚を捕らなくても今の魚価で十分だと思うんです。実際問題、漁獲量としては毎年落ちてきているんです。でも、漁獲高という金額にすると、市場の原理で落ちてはいない。じゃあ、それで良いのでは?と思いますが(笑)。

    -会社の経費が持続可能な漁業につながるのですね。

    芦崎:そうですね。これだけ捕ればいいように経費を使っているから大丈夫ですって、大きい声で言いたいです。そのやりかたが周りに広まったらと思います。去年は、どこよりも先に網を上げて漁を終えました。今は僕が率先して、「持続可能な漁業」を実践したいと思っています。

    ■「これだけ捕ったら、やめるべ」と言える経営

    -芦崎さんは道東SDGs推進協議会にも参加されていますが、持続可能性についてどのような考えをお持ちでしょうか?

    芦崎:うちの会社でも5つくらい目標があてはまりますが、「海の豊かさを守ろう」ってありますよね?海の豊かさって、「自然魚がたくさん増えて、資源があって素晴らしい」というのが目標になると思うんですけど。正直、自然魚が捕れなくなってきて、養殖を増やすとなると、少なくとも人の手が加わることですから。自然そのものの豊かさとは言えないのかなと思うところもあります。例えば、自分らの生活が豊かになるために養殖をどんどんはじめて、テトラポッドをたくさん入れて…というのは、豊かさと呼べるのかな?と思ったり。SDGsって解釈の問題で、違う方向に行っちゃう怖さもありますよね。

    -海の豊かさを守るために、決められた魚種や漁獲量などあるのでしょうか?

    芦崎:サンマやマグロといった魚は、実際に各国何トンまで、といった国際基準にもなっています。日本では、水産庁から北海道、そこから各管内の漁業組合を経て、それぞれの船へ漁獲量が割り当てられるのですが、その割り当てが上手くいっていない印象もあります。でも、やっぱり僕は自分らで「年間これだけ経費がかかり、ここまで捕ればみんなにボーナスも渡せるよ」と基準をオープンにして「これだけ捕ったら、やめるべ」と言える経営をやりたいですね。今までと同じように経費をかけて、経費まかなえるだけ捕ってこい、と言う今までの漁師さんのスタイルは、ちょっと違うなと。

    ■家族のようなワンチームな漁業を

    -お話を聞いていて前例にないようなことをやっているように感じます。反発などありませんか?

    芦崎:あると思いますよ(笑)。羅臼の常識にはないやり方でやっているので。というのも去年、出航回数を半分以下にしたとき、従業員にボーナスを我慢してもらっています。うちの従業員も「なんでそれしか給与もらってないんだ?」と他の会社の人から言われたみたいですし(笑)。でも、それによって「そこのお金がこれだけ浮いたんだよ」というのを僕は見せるので。他の会社と比べたら1人頭のお給料は微々たるものかもしれない。でも、「会社を存続させるために節減したお金だから。これは最後みんなに振り分けるから」という説明をしました。有難いことに、誰1人辞めなかったです。隣の芝生は青いかも知れないけど、やったことに対しての報酬じゃないと僕は続かないのかなと思います。

    まさに「ワンチーム」な経営だなと聞いていて感じました。

    芦崎:従業員の中には、僕の子どもの同級生の親もいて仕事をしています。また僕は、経営者でもあるから従業員の台所事情も知っちゃっている。だからこそ他の会社から見ても待遇など悪くしたくない思いもあるんですが、会社にも限界はある。できる範囲の中で、「どうやってみんなと持続可能な経営や漁業をやっていけるか?」と常に考えないと。例えば、待遇の面などで漁業から鞍替えして羅臼を離れる従業員がいて、その子どもがいたら同級生が転校するってことでしょう?そんなの嫌ですよね(笑)、人口だって減少している訳だし。やっぱり子どもからしても漁師ってカッコいい仕事だなって。父さんこんな仕事をやっているんだって、憧れるような仕事としてオープンにしていきたいですね。会社は本来、開かれていないとならないと思うので、ワンマンじゃなくワンチームでやっていきたいと思っています。

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